生産者であるということ


植物の生産についてのこだわり

 生まれた時から、植物と共に暮らすことが、普通の生活の中にあったため、とくに「植物の生産を仕事にしてみたい」と思ったこともないが、気付いたら、好きな植物に囲まれていた。

 

 生活が、植物を中心に回っている。

例えば天気。1日の内で何回も太陽、雲の流れ、風、気温をチェックする。

もちろん、ニュースやアプリも見るが、自分で感じる、見る、そして経験則に照らし合わせるということが、しみついている。

 この経験則という部分は、今も、子供の時から花苗生産の現場で学んだことがベースとなっていて、365日、植物が頭の中を離れることはない。

 

 生産する上で心がけていることは、やはり健全な株に育てるということだ。

健全とは、葉や花などの見えている部分はもちろんのこと、見えない部分こそが健全であるということ。

根が健全でないことには、どうしようもない。

 

 鉢のままで発送するのは、ここにこだわりがある。

 

 

 


輸入について

 生産もするが、輸入もする。

日本に自生している多肉植物は、ミセバヤなど限られている。

先人たちが、輸入してくれたおかげで、今、日本でも多様な多肉植物を目にすることができ、また、それらの植物で交配もできるのだ。

ここで重要なことは、ルールを守り、信頼できる農園から、信頼できる植物を入れることである。

 

 輸入株は、根を切られ、分厚く梱包され、何日もストレスを受けている。

その苗をそのまま販売するなど、とうてい考えられない。

輸入した株が100%販売できるかと聞かれれば、決してそんなことはない。

何パーセントかは、傷み、枯れてしまう。

そのリスクをお客様に背負わせることになる。

 

 たとえ、カット苗や抜き苗を買って来て、発根できたとしても、プロの管理によって養生、発根させたものと比べれば、その後の生育に大きな違いが生じることになる。

土の配合や、水やりには、プロのテクニックが隠れているのだ。

 

 養生とは何か。

海外から輸入した植物は、もちろんその土地、気候で育ったものである。

それを、日本の土地や気候に慣らすことが養生であり、とても重要な作業だ。 

日本の土に植え、日本の水をやる。日本の気温に慣らし、日本の太陽の角度に順応させる。

すぐに慣れるのもいれば、グズグズするのもいる。ダメになるものもある。

それらを毎日確認して、調整する。

そして、植物が、もういいよと言えば、販売できるのである。

 

 植物は、当たり前だが生きている。

もちろん、人間と同じで調子を崩す時もある。残念ながらお別れしなければならない時も。

 

 いかに健全な植物を生産できるか。

販売した後に、お客様の元で、より元気に、楽に育つ植物を育てたい。

 

すべてはここに行きつくのである。

 

 

 

 


育種について

 ハオルチアやエケベリア、ユーフォルビアなど、より良い品種を求めて育種している。

この、より良いとは何か。

もちろん、見た目の美しさ。今までに無い色、姿、サイズ、透明感などなど・・・

 

ハオルチアの'フォーエバービューティー'は白さ、'金剛'は今までに無いオレンジ色を追求した。

エケベリアの'薄桜'は、桜の花びらのような形と淡い色。

 

 

 そして、この、見た目の美しさとともに、重要なことがある。育てやすさだ。

ここでも健全な株ということがキーワードになってくる。

育種の、より良いとは、病気に強い、育てやすい、日本の夏のような気候でも枯れにくいなど、より強健な株に改良するということが含まれるのだ。

 

 今の育種ブームで、いろんな人が花粉を掛け合わせている。

しかし、見た目がどんなに美しくても、気候の良い一部の地域でしか育たないだとか、育てるのが難しく枯れてしまう、あるいは、すぐに病気が出るなどという品種ではダメなのだ。

これは、多肉植物の世界のことだけではない。

昔から、どの植物においても育種家はこの両方をより良くするために育種している。

 

 品種名を付けるということ。

交配して、種を蒔く。こうして育てたものの中から選抜する。

選抜したからといって、納得できるものだとは言えない。

一応残しておいて、違うものと交配するか、様子を見るだけのこともある。

 

 納得できるものができたとして、その一株に名前を付ける。

選抜されなかった他の株たちはどうするか?廃棄である。

実生なので、いろんな顔が出るが、その中からひと株選ぶことが、名前を付けるということ。

 

 実生でできた、この顔にも、あの顔にも、全部同じ名前を付けるというのは、その後に混乱をきたすであろう。

またその反対で、同じ実生のあの顔にはあの名前、この顔にはこの名前という、別々の名前をつけることもしかりである。

 

元々は同じ交配の同じ種なのだ。

 

 育種とは、地道で気が遠くなるような作業の連続、そして、ひと粒の、植物の奇跡を待つしかないのだ。

 

 

 

 


プロフィール

松岡 修一

1978年、奈良県の花苗農家に生まれる。

「植物に関わることがあたりまえ」の環境で育ち、幼少時より、生産に携わり技術を習得する。

農業高校卒業後に、タキイ園芸専門学校で学ぶ。

多肉植物に魅せられ、1998年にたにっくん工房を立ち上げる。

 

 

■趣味:ドライブ、料理

山や川、海など自然の中へ行くことが楽しい。